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歯科開業に先立って考えておくべき2025年・2040年問題の課題と対策

歯科開業に先立って考えておくべき2025年・2040年問題の課題と対策
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医療・介護の現場で最近よくお伺いする2025年・2040年問題ですが、当該の問題がすぐそこに差し迫る中、歯科開業への影響や対策を考え、歯科運営にあたる必要があります。 そこで、歯科開業に係るそれぞれの年代の問題と、今後どのような対策を講じていくべきかについてお話します。

2025年・2040年問題の概要と歯科業界の課題

2025年・2040年問題の概要

2025年には1947〜1949年頃生まれの団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる事で、65歳以上の人口割合は全人口の約3割に達し、医療・介護の需要や社会保障の費用負担が激増する事で、従来通りのサービス内容では需要を支えきれず、様々な問題が起こると考えられます。このような問題を総称し「2025年問題」と呼んでいます。

更に、2040年になると団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢人口が約3,900万人となってピークを迎えます。高齢者が現在より300万人増える一方、生産年齢人口が約1,200万人減少し、現役世代1.58人で高齢者1人を支える計算になります。この様に、働き手・支え手不足がより深刻化する「2040年問題」も、日本が抱える大きな課題になっています。

歯科業界への影響と課題

訪問歯科の需要急増

2025年問題を皮切りに、これから先約20~30年に渡り高齢多死社会を迎える中で、歯科診療では高齢者が必要とする義歯等の診療対応や、訪問歯科の需要が急激に高まると考えられます。

高齢者の看取りについては近年約7~8割を医療機関が請け負ってきましたが、2040年をピークとし年間約200万人の死亡者が推計される中で、地域によっては医療・介護の供給が追い付かない事が予想されます。

そのため、政府・各自治体主導の下、地域包括ケアシステムの構築が推進されてきました。

地域の高齢者に対する歯科の診療・予防も、下記にある通り

可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる

厚生労働省 地域包括ケアシステム

地域特性に応じた取り組みを促されています。

歯科疾患の外来受領率 平成29年
出典:中央社会保険医療協議会「総会(第495回) 議事 在宅(その4)について 総-4-2(令和3年8月25日改)

特に80歳以上の高齢になると歯科診療の受療率の減少が顕著で、自力での通院が難しい患者さんが多く、地域の患者層によっては訪問歯科拡充の重要性が伺えます。

訪問歯科の供給不足

訪問歯科の受入率

訪問歯科の重要性が増す一方、実際には供給が追い付いていないという側面もあります。訪問歯科の実績率は2017年に2割程度と言われていましたが、令和2年の医療施設調査によると現在は全国平均42.4%と受入率が増えてきているものの、都道府県ごとに見ると最低18.2%~最高60.1%と地域により受入率に隔たりがあります。

高齢化率の伸び・上位10県

また、高齢化率や将来的な伸び幅も各地で異なり、人口の分母や他の様々な要素が絡むので一概には言い切れませんが、訪問歯科の受入率が低く高齢化の伸び率が大きい地域などは急な変革を求められる可能性が高いと推測されます。

歯科に携わる人材の不足

2025年には労働人口(15~64歳)が総人口の5割台になり、深刻な働き手不足になると言われています。歯科業界でも歯科医師や歯科衛生士・他スタッフの数が減る事を事前に考慮し、人材確保はもちろん、それができない場合の運営方法も検討しておかなければなりません。

歯科で行うべき2025年・2040年問題の対策

地域包括ケアシステム参入のポイント

開業地の特性にもよりますが、高齢者の在宅診療の需要が高い地域の場合には、訪問歯科の実施が必要になっていくでしょう。

歯科訪問診療を実施したきっかけ
出典:中央社会保険医療協議会「総会(第495回) 議事 在宅(その4)について 総-4-2(令和3年8月25日改)」

歯科医院で訪問診療を開始するきっかけは、自院に通院歴がある患者さん・ご家族からの依頼や介護施設からの紹介についで、医療機関からの依頼であるという調査結果があります。

実際の現場のお話を伺うと、歯科は医科よりも一人の患者さんに対しての訪問診療実施のタイミングが遅く、地域包括ケアシステムの中で円滑に歯科へ依頼が来るようにするのは難しいようです。

その一つの要因として、高齢の患者さんは自身で歯の不具合に気づき難かったり、認知症の影響で自身の口腔状況を覚えていられなかったり、周りが歯科受診の必要性に気づくまでに時間がかかる事があげられます。また口腔機能・嚥下機能の低下は、顕著な症状が出るまで歯科への依頼が来ないこともあります。患者さんご家族や医科との連携の中で、どのような状態であれば歯科受診が必要なのかという認識が中々浸透していないというのが現状です。

このような事から、地域包括ケアシステムの中で歯科の立ち位置としては、患者さん・ご家族や介護施設・医療機関からの連絡を待っている状態となり、積極的に訪問診療へ参入していくのはまだまだ難しいという課題が残されています。

地域によっては訪問歯科の参入が過渡期で、体制が整備されているとは言い難い状況かもしれませんが、このような中であるからこそ各方面との情報の受け渡しが重要になります。

特に、ご家族や介護施設のケアマネージャーの方への診療内容の報告や、経過の確認などはとても大切になります。たとえ向こうから確認がなくても、こちらから連絡を入れる事でトラブルの防止につながりますし、患者さんの見守りに通じる事もあるので、歯科からも積極的に連絡を取っていく体制づくりが大きなポイントになります。

訪問歯科の始め方については下記の記事でご紹介しているので、ご参考にして下さい。収益向上のための周知方法、クリニックでの実際の営業活動の在り方などについても簡単に触れています。

歯科の人材確保

人材確保については歯科採用に特化した求人サービスなどを利用し、各クリニックでも注力している事でしょう。ただし、求人サービスを利用しても面接などは各クリニックで行う事になります。面接の流れや採用の決め方については下記の記事で解説しています。

また、長く働き続けやすい環境をクリニックで整えておかなければ、せっかく確保した人材も流出してしまいます。そのため、医院に合ったルール決めや福利厚生、人材育成制度なども充実させていく事が大切です。それぞれ、以下の記事で詳細をお伝えしています。

地域性などもあり、どうしても人材が潤沢に揃えられない、というケースも出てくるでしょう。その様な時は採用活動と並行して、受付・呼出・精算などの業務を機械対応に切り換え、今いる人材の時間を確保するなども有効な対策です。

自動釣銭機・自動精算機の導入ポイントや予約システムの活用方法は以下の記事でご紹介しています。

社会保障制度の変動に対応

2022年には歯科訪問診療の評価や施設基準の見直しが行われたり、後期高齢者の医療費窓口負担が1割から2割に引き上げになったり、社会保障制度も変動の時を迎えています。

特に歯科訪問診療の診療報酬算定については、需要が増す中で評価やルールが変わる事が考えられるので、算定漏れやルール遵守に気を付けていきましょう。

予防歯科の充実

訪問歯科の拡充と同時に、予防歯科を充実させていく事も引き続き必要になります。医院に通って下さる地域の方の口腔内を健康に保つ事で、訪問歯科の需要そのものや、歯科診療の供給不足の逼迫を防ぐ事につながっていくので、この点についても力を注いでいきましょう。

2025年・2040年問題と歯科業界との関わり方について、簡単にご説明しました。

もちろん、地域ごとに必要となる歯科診療の在り方も様々です。これから開業する歯科医院をどのように経営していけば良いのかという事を知るには、開業前から医院の立地と患者層をよく把握しておく事が重要です。

インサイトでは歯科開業のコンサルティングサービスを請け負っております。自分の診療・経営スタイルにあった開業先についてお悩みがある場合には、WEBフォームよりご相談下さい。

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