厚生労働省が出している「患者調査」の統計情報から見える、患者数の推移とそこから読み取れる考察をまとめました。
患者調査とは?
調査の目的
病院及び診療所(以下「医療施設」という。)を利用する患者について、その傷病の状況等の実態を明らかにし、医療行政の基礎資料を得る。
患者調査
調査の沿革
この調査は、医師の診断した傷病名に基づく傷病調査で昭和23年に行われた「施設面からみた医療調査」を前身としており、昭和28年に「患者調査」となった。患者調査は、患者の診療録の内容に基づく1日調査として毎年実施されたが、昭和59年からは、調査内容を充実し地域別表章が可能となるよう客体数を拡大するとともに、調査を3年に1回、医療施設静態調査と同時期に実施することとなった。平成5年調査からは、病院の入院患者及び病院の退院患者の状況を二次医療圏別に表すことが可能となっている。
患者調査
上記参照の厚生労働省WEBサイトにも記載がある通り、3年に1度、医療施設生態調査と同時期に行われる、施設、診療内容別に患者数などを調査したものです。
それでは早速、患者数推移について解説していきましょう。
歯科の患者推移
推計患者数 | 2002年 | 2005年 | 2008年 | 2011年 | 2014年 | 2002-2014年間の増加 |
---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 1147.9 | 1277.2 | 1309.5 | 1362.5 | 1363.4 | 215.5 |
過去5回の調査に渡り、歯科診療所の推計患者数総計をまとめたものが上の表になります。直近2014年の患者数は136.3万人。2002年の患者数と比較すると、この12年で21万5500人の患者さんが増えている事が分かります。

統計資料を外来の症例別に見ると「歯肉炎及び歯周疾患」「その他の口腔,唾液腺及び顎の疾患」「乳幼児の検査・健診・管理」「それ以外の検査・健診・管理」の患者数が特に増加傾向にある事が分かりました。それぞれの推移は上記グラフの通りになります。
母数は「歯肉炎及び歯周疾患」が外来の中でも最も大きく、2014年の患者数は42.8万人となります。2002年から2014年までの間に約17万人近くの外来患者数が増えていますが、全体伸び数のおよそ78%はこの症例で占められています。

続いて男女の別で見てみると、女性の外来数の伸び率は男性より1.3倍多く、最も母数の大きい「歯肉炎及び歯周疾患」の症例では、増加患者数の内、約60%が女性の患者さんです。
また、患者数の母数は歯肉炎・歯周疾患ほど大きくありませんが、その他の口腔・唾液腺・顎の疾患は、男性より女性の方が4.7倍の伸び数となり、顎関節症など女性の発症が多く増えてきていることが窺い知れます。
これらの内容を年代別にも見てみましょう。

全体としては年々増えていますが、0~34歳の幼年~壮年前半層が減っているのに対し、60歳以上は男女とも増加傾向にあります。初老~老年層は10万~40万人の規模で増えており、12年間で概ね2倍になっている事が分かります。

「歯肉炎及び歯周疾患」は主に幼・少年層と高齢層で増えています。また、症例の中でも増加傾向にあった「乳幼児の検査・健診・管理」については、1~4歳の人数は男女比7:4となっており、2011~2014年の近年では女児に比べると男児の方が1.75倍患者数が多くなっているようです。

女性で増えていた「その他の口腔,唾液腺及び顎の疾患」はどうでしょうか?年代別に見ると中高年女性が特に増加傾向にあり、45~49歳の推移は2002年1,000人に対し2008年は15,000人、6年間での伸び率は15倍にもなります。
他にも「う蝕」などは5~59歳が減少しているのに対し、60歳以上の外来数は増えており、男性は3.14倍、女性は4.64倍が伸び率の最高値となっています。
歯科の推計患者数と受療率
受療率とは、一日にどれくらいの患者さんが受診したかを表す数値になります。
具体的には、患者調査を元にある特定の一日に受診した全国推計患者数を求め、これを総人口数で割り、人口10万人との比率で表したもので、数式は以下の通りです。
受療率 = 1日の全国推計患者数 ÷ 特定日の現在総人口 × 100,000
国立保健医療科学院で公開されている平成22年度分担研究報告「歯科診療所の患者数の将来予測 ~患者調査の公表値を用いた検討~【訂正版】」では、年齢階級別の受療率を分析し、推移から考察を重ね、将来的に歯科診療の患者数がどうなるかという事が示されています。
研究報告の中で、受療率と患者数については以下の様に分析・予測されています。
<受療率の分析と将来予測・年齢階級別>
・~14歳:変わらない(人口推移の影響のみ受ける)
・15 ~ 44 歳:減少(う蝕に依存して変化)
・45 ~ 64歳:変わらない(人口推移の影響のみ受ける)
・65歳以上:増加(現在歯数に依存して変化)
・全体傾向:青少年・若い成人層における減少と高齢層における増加が顕著
<2005年と2035年予測値との患者数比較>
・2035年の推計患者数は126.4万人
・14歳以下:4.8 万人減/15~44 歳:19.5 万人減
・45~64 歳:5.3 万人増/65歳以上:28.8 万人増
(比較値は増減差し引き計9.8万人増)
・高齢者の割合は2 倍近く増加
・小児の割合は減少し、2005 年9.4%(実績値)→2035 年5.6%まで減少
・推計患者数の方が人口推移より減少幅が小さい。
・推計患者の将来予測値は、同期間中に予測される人口減少を踏まえると、相対的には増加と捉えることができる。
患者数調査の統計考察からも同じような傾向は読み取れましたが、こちらの研究報告では現状の傾向に独自の指数が加わり、より具体的な将来像が見えてきますね。
患者数推移の考察についてでした。
患者数や受療率は、今後の歯科開業や医院経営の方向性を決める一つのバロメーターともなるので、これらの数値や傾向が将来的にどうなっていくのか、とても気になりますよね。
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