これから複数回に分けて歯科新規開業を取り巻く歯科業界の現状と将来の予測についてご紹介していきます。今回の歯科新規開業を取り巻く環境と将来の予測の第1回目では、歯科開業の開業件数と開業地の偏りについてお伝えします。歯科開業の全体については「歯科開業について」をご覧ください。
歯科新規開業を取り巻く環境と将来の予測 シリーズ
【歯科開業の現状】
1.開業件数と開業地
2.歯科医療の需要と供給
3.歯科医師の高齢化
4.30年後の人口予測と歯科業界
【歯科の未来予測】
【まとめ】
減少し続ける歯科新規開業件数
各年 前年10月~9月(医療施設調査)
2002年 | 2003年 | 2004年 | 2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 |
2,632 | 2,210 | 2,420 | 2,517 | 2,263 | 2,109 | 2,116 | 1,815 | 1,760 | 1,926 | 1,633 | 1,707 |
歯科医院の新規開業件数は、2005年までは概ね毎年約2500件ペースでしたが、2005年を境に毎年減少傾向にあります。
マスコミでも報じられているように歯科医院数がコンビニよりも多く、経営的にも非常に苦しくなっていることや、直近で開業した先輩達がなかなか安定した経営になっていないのを身近で見聞きして、勤務医の先生が開業にメリットをあまり感じなくなったことが大きく影響していると思われます。また、開業をサポートする金融機関等も同様に歯科医の開業に対して懐疑的になっていることも大きな理由の一つにあげられます。
しかしながら、一般医科と異なり長期雇用が保証されない歯科医業の雇用環境の中ではやはり最終出口としての開業は続くものと考えられるでしょう。
そうなれば、やはり開業に関しては従来のように「なんとなく開業」するのではなく、明確なマーケティングや立地選定、患者集客など一般のサービス業に見られる手法を駆使しながら開業しなければ成功はおろか、歯科医院を継続していくことさえ危ぶまれる時代になったと言えます。
偏重する歯科開業地域
昨今の開業の特徴として、大都市圏に集中する傾向が続いています。
厚労省発表の医療施設調査の2010年~2012年3年間平均をみてみると、関東が40.0%、近畿20.3%、九州沖縄11.1%とこの3地域で全体の開設数の約7割を占めている事が分かります。
また、こうした大都市の内部でも一部の地域に開業が集中する傾向にあます。
たとえば東京都の328件のうち82%にあたる269件が23区内に集中しており、大阪府では176件のうち25%が大阪市内、福岡県では90件のうち46%が福岡市と北九州市に集中しています。
一方、全国での平均廃止率をみてみると、全国平均は4%になり、開業件数に比較して、閉院の率が84%であり、歯科医院が増加していることを表しています。
逆に、開設より廃止が上回り実質的に歯科医院が減少した地域は、青森(183%)、秋田(157%)、福島(136%)、宮崎(129%)、徳島(125%)となり、東北大震災の影響もあり、東北地方での閉院が多いことが分かります。
政令指定都市である都道府県の中で唯一、歯科医院が減少している北海道は札幌を除いた地方部を中心に人口が2010年から2014年間に約10万6千人(国勢調査)減少していることに起因するものと思わます。
また、北海道の札幌市への一極集中が起こっており、歯科医院の増加件数も同様です。
このように、地域によっては開業が集中し、ある地域は歯科医院が減少するという偏重した傾向にあり、今後もこの傾向は当面変わらないと推察できます。
では、なぜこうした偏重がおこっているのでしょうか?
歯科医院の経営が厳しいと言われて久しいにもかかわらず、相変わらず開業地域が偏っている理由があります。
従来の歯科医院開業場所の決め方
いくつか理由が考えられますが、大きなものはやはり歯科大学がある地域と、その後の勤務先を通す中で構築される歯科医医師としてのライフスタイルに影響していると考えられます。
つまり、学生時代から勤務医時代を通して慣れ親しんだ地域での生活を通して、衣食住のライフスタイルが決まり、そのライフスタイルを維持するため開業場所もこうしたライフスタイルを維持できる「慣れ親しんだ場所」での開業を望んでしまうケースが多いでしょう。
実際、弊社でここ20年間の開業コンサルティングを通して感じているのは、過去の諸先輩は概ね次の3つのパターンのいずれかで開業地を決めてます。
・自分もしくは配偶者の実家もしくはその近辺
・過去に自分が勤務していた医院と自分が住んでいた延長線上のどこか
・歯科大学の近く
いずれにしても、前述したように自分が良く知っている場所で開業物件を探しているということになります。そうなれば、当然同じような境遇で育った同世代の歯科医は同じような場所で開業することになり、競争が激化するのは当たり前です。
しかし、世の中のフランチャイズを展開する企業、たとえばコンビニやメガネ店、牛丼屋などが出店する際、役員や社員が知っているあるいは「慣れ親しんだ場所」に開業しているでしょうか?
答えは否。
こうした企業は、独自のマーケティング手法に基づいて市場調査や競合調査を行いその結果で出店を意思決定しているのです。
諸先輩の時代の歯科開業は、歯科医院が少ない時代だったため、ある意味どこで開業しても患者さんは来てくれました。上記にあげた3つのパターンにいずれで開業してもある程度医院経営は安定したはずです。つまりは、歯科医院側の目線、言い換えれば歯科医師の好みで開業する場所を決めることができたわけです。
しかし、これからの開業はそうはいきません。しっかりとしたマーケティングに基づき開業場所を決めないと大変なことになってしまいます。
重要視すべきは、歯科医師の目線ではなく、
「患者の目線」で開業を考えなければならない時代になったといえるでしょう。
それでは歯科医院飽和時代とも言われている現在の、歯科医院の需要と供給はどうなっているのでしょうか?次回歯科開業を取り巻く環境と将来の予測2「歯科医療の需要と供給」で説明します。