一般企業が、顧客を増やし収益を上げたいと考えた場合、最初に取り組むのは経営実体の分析です。このためには、あらゆるものが数値化されていることが前提となっており、数値化が出来ていなければ手の打ちようがありません。
歯科医院も同様に、患者さんの動向をつかむための数字や、日々の収入金額などがきちんと数値化されていなければ、何に原因があり、何を改善すれば良いかが分からなくなってしまいます。
歯科医院経営のために、先生が意識しなくてはならない実来院数・点数は、実際どのくらいでしょうか?今回は、安定した経営へ移行していくために必要な指標について考えていきましょう。
また、これからご開業をお考えの先生も、開業前からしっかりと理解しておくことで、歯科医院の経営早期安定化のために何をすればいいのかが見えやすくなりますのでご参考ください。
はじめに、歯科医院の収益構造を理解しよう
まず、歯科医院の収入源(医業収益)がどのように成り立っているのか考えてみましょう。詳しくは「歯科医院のキャッシュフローの考え方と計算方法」で解説していますので、まずは、そちらをご覧ください。
歯科医院の医業収益は、保険診療、自費診療、雑収入に大きく区分されます。そして、皆さん周知の通り、保険診療は保険制度に基づいた保険点数から成り立っています。
自費診療の料金については全く制約がないのですが、おおよそ技工料金の5倍や10倍または、近隣の競合医院との比較による価格設定となっています。雑収入はハブラシなどの予防器具を中心としたものです。
患者さんの数が少ない時に、医院の固定費(家賃や人件費、水道光熱費など医院を維持するために出てしまう費用)だけでもなんとかするために、1人あたりの売上を延ばそうとすると、どうしても自費の割合を高めようとする傾向が強くなりがちです。
しかし、患者さんにとっては、医院の都合に左右されていることに他なりません。これは方法を間違えてしまうと「あの医院はすぐに自費を進めたがる」「あの医院は高い」という悪い評判がたち、なおさら患者さんの足が遠のいてしまうことにもつながってしまいます。これでは、本末転倒です。
そこで今回は、自費診療の前に、まずは保険診療を主体にして、経営の安定をはかる点数や指標について考えていきます。
医院の収支バランスをみて、自費診療や雑収入を増やしたいという方は、別記事で紹介しているのでそちらをご覧ください。
点数・計数管理を行うためのアポイント表や日計表の準備
歯科医院の点数や経営指標を考えるために、まずは日々の医院の状態を理解することが大切です。計数管理が行えるようなアポイント表や日計表を準備されてください。
レセコンや予約システムから簡単に集計が出来るものも増えていますので、レポート機能やデータ出力などを行い月ごとの集計を確認されてみても良いかと思います。
これを機に、レセコンや予約システムなどの切替や導入を検討されるようでしたら、インサイトの一括デモサービスをご利用ください。
それぞれどのような項目や記入をしておいた方が良いかの例を紹介します。
日計表やアポイント帳の項目と記入ポイントと集計してチェックする内容
日計表やアポイント帳でチェックする例を紹介します。
天候と曜日
天候によるキャンセル率が上がるようであれば、事前にキャンセルを見込んだ集患対策を打つことができるので、天候を記入できるようになっていると良いでしょう。また、曜日別に患者さんの動向が変わる(新患が多い)などの傾向が出てくるようであれば、予めスタッフを増やしておくなどの管理の対策を打つことが出来ます。
処置欄
1日のアポイント数を増やそうとすると、どうしても予約受付の際に効率的な処置の組み合わせの対応が必要になるため、次回の予定をできるだけ簡略化して書くことができるようにします。
引継メモ
患者さんからの要望や、スタッフが入れ替わる時に必要なことや至急必要な材料・薬品なども記載しておくことで、院内の連携がスムーズになります。
来院状況
① 総予約数:すべての患者さんの数。予約がなかった新患の数も含む
② 実来院数:実際に来院した患者さんの数。総予約数から無断キャンセル、TEL キャンセルを引いた数
③ 新患数:再初診以外の新患の数
④ 再初診:再初診の数
⑤ 完治数:Drが完治と判断した数。または、次回を定期メンテナンスとした数
⑥ 無断キャンセル:当日の診療終了までに連絡が無いままの患者さんの数
⑦ TEL キャンセル:電話により、キャンセルが入った患者数
⑧ 保留:TEL キャンセルの内、次回の予約が入らない患者さんの数
だいたい見た通りですが、無断キャンセルとTELキャンセルを分けて管理し、さらにTELキャンセルの中でも最終的に無断キャンセルにつながりそうな次回予約の入っていない保留患者を把握するよう出来ると良いでしょう。来院状況では、必ず⑥+⑦+②=①になっているかどうかを確認されてください。
歯科医院の経営状態を常に把握し、安定度を測れる指標とは?
歯科医院の売上の計算は「患者数×患者来院1回あたりの単価×来院頻度」です。つまり経営を維持していくためには、実際に来院した患者数(実来院数)と患者来院1回あたりの単価(保険点数)が重要になります。来院頻度を上げること、実来院数と点数(保険点数)にスポットをあてて、考えていきます。
実来院数
実来院数とは「実際に来院した患者の数」のことを指しますが、患者の数を把握するだけでは計数管理の意味がありません。まずチェックしておきたいのは「キャンセル率」と「持ち患者数」です。
キャンセル率は名前のとおり「予約したのにキャンセルした患者数」を数値化したもの。この時に大切なのは「電話キャンセル」と「無断キャンセル」を分けて把握することです。電話キャンセルの場合は、患者さん自身が何らかの予定が入ったためにキャンセルしており、日を改めて来院する可能性が高いのに対し、「無断キャンセル」の場合は何か不満があって継続通院を拒否しているとも考えられるからです。
ただし無断キャンセルの中には「うっかり忘れていた」という場合も考えられるので、何らかのアプローチをすることも忘れないようにしてください。いずれにしても「正確な数字」を把握することが大切ですので、日計表などを用いて管理するようにしましょう。
持ち患者数
「持ち患者数」とは将来の来院患者予定数と言い換えることもできます。アポイント帳などをみて予約の入っている人数を確認します。その際に重複して予約している患者は省きます。この「持ち患者数」には医院の安定度をチェックする一定の指標がありますので、参考までにご紹介します。
<持ち患者数の指標の参考>
- 60名以下(かなり危険な状態)
- 60~80名(何らかの手を打たないと、危険な状態になる可能性がある)
- 80~100名(やや危険。何かの拍子に急速に患者が減る可能性がある)
- 100~120名(普通。一応の安定状態といえる)
- 120~150名(良。安定しており、特別なことがなければ患者が急に減ることはない)
- 150名以上(優良。常にこの状態を保つようにすることが大事)
保険の点数はどう考える?予想累計点数方式
保険点数は売上に直結する重要な数値です。毎年行われる診療改定で、歯科医院の点数は年々厳しくなっていますが、その中で自身の病院の目標達成は常に行っていく必要があります。そのためにお勧めしているのが「予想累計点数方式」です。
予想累計点数=(月初から当日までの累計点数)÷(月初からの当日までの診療日数)×(今月の診療予定日数) で計算することができます。
この計算は毎日行います。月末に近づくほど数字の精度が上がっていきます。あらかじめ目標とする点数を決めておき、予想累計点数と照らし合わせていけば、目標が達成できます。集患数の把握とともに管理しておくと、経営の安定に大きく貢献する資料となりますので、ぜひ取り入れていただければと思います。
医院の集患人数と平均点の相関指標
月毎の実来院合計数と平均点を相関的なグラフとして見ていくものです。実来院合計数と平均点の数値をグラフ化すれば来院患者数と保険点数の相関関係が視覚的に捉えやすくなります。サンプルのグラフ例では、実来院数を棒グラフ、平均点数を折れ線グラフにし、相関関係を表示しています。
先に掲げた相関指標の例では、来院数と平均点数が概ね一定しているものの、来院数の割に平均点数が高かったり、低かったりする月が見受けられます。
来院数と平均点数の指標が交差している部分は、先生の技量とスタッフの働きなども含めた現在の医院の治療技術において、治療時間と内容のバランスが取れている月になります。
逆に、指標の点が離れているところの原因を考えてみると、患者数が少ない時には主訴以外の治療を行う時間的余裕があるので平均点数があがっていたり、患者数が多い時には時間をなるべくカットする為に主訴の治療だけを行っているので平均点数が下がっている、などという理由が浮かびあがります。
このように見ると、来院数と平均点数が交差している月が理想の治療を行えている箇所と言えますね。先生の診療スタイルにもよりますが、このバランスの取れた箇所の平均点数を安定させながら、患者数を増やしていくのが収入を上げる近道になります。
歯科医院の経営を安定、成長させるには
自分の医院の平均点数を維持するという事は、治療の質を一定以上に保つという事です。その上で、診る患者さんを増やすのであれば、1回の治療の効率を上げていくのも有効な手です。
治療の効率を上げるには、スタッフ全員で治療の処置工程を改善する事も重要ですが、当日の診療計画をスタッフが把握しできる限りの事前準備を行う、処置内容に応じて効率のいいアポイントを組む、などといった工夫も必要になります。
同時に、キャンセル率を極力抑える必要もあるでしょう。無断キャンセルは既存の患者さんを失うという事でもあります。無断キャンセル率は5%内に留めておくようにするのが理想でしょう。
具体的には、治療の説明をきちんとしてあげるなど、患者さんのケアをきちんとしてあげる事が重要になります。
そうした取り組みで再初診の患者さんが来やすい環境を整えると共に、新患数の伸び率にも着目しましょう。新規の患者さんの増加はマーケットの拡大、すなわち患者さん数と収入の増加につながるので、成長戦略の為には欠かせません。
曜日や季節の動向なども読みながら、どの時期に新患が来やすいのか、その為にスタッフを増員し受入れ体制を整えるなどして対応に当たりましょう。
これらの対策を実現するには、指標に対する目標値を設定する事が最も重要です。
目標値を設定する際に「他の歯科医院はどうなのか?」「平均はどれ位なのか?」と平均を目標にとお考えの先生も多くいらっしゃいます。歯科の平均については、また別の記事でご紹介しようかと考えておりますが、医院(先生)のビジョンや診療スタイル、広さや人員などの規模や立地などによって大きく条件がことなるので、平均はあくまで参考の数値としかなりません。
来院数・新患数の具体的な目標数値を定め、目的を理解した上でスタッフ一丸となって取り組み、目標を達成していきましょう。他にも様々な指標の読み解き方、対応策があるので、環境に応じて指標をご活用ください。
他にも歯科医院の経営に役立つ記事をトピックスで紹介していますので併せてご覧ください。
- 歯科医院のキャッシュフローの考え方と計算方法【保存版】
- 開業前に学んでおくべき経営学とは?経営者としての考え方
- 歯科医院の財務分析をしてみよう!財務分析の考え方
- 歯科医院の労働分配率の見方と考え方 ~医院の人件費~
- 歯科で抑えるべきコストとは?利益を圧迫する経費が生まれる原因と対策
- 歯科医院で使える様々な助成金
- 歯科開業時に使える補助金の使い方と参考例
- 歯科医院で使える東京都の奨励金
- 医療経済実態調査からみた歯科医院の収益推移
- 歯科医院でおこりがちな黒字倒産の要因と5つの注意点
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