ないに越したことはありませんが、気を付けていてもおこってしまう患者さんからのクレーム。今回は、クレーム対応をテーマにお話ししていきます。
なぜ患者さんからのクレームとなってしまうのか?
患者さんが医院に対して持った期待値を下回ってしまった時に、期待が不満へと変わってしまい、クレームが発生してしまいます。
しかしこの期待値は、患者さんそれぞれの感覚的な側面に左右されてしまいます。多種多様な価値観がある中で、すべての患者さんに満足してもらうのは難しいでしょう。
クレームは努力しても発生しまうということを前提に「起きてしまった時にどれだけの対応出来るか」と「起こさないための対策がとれるか」という点が大切です。
クレームが起きてしまった時の対応ポイント
クレームが発生してしまう要因としては「治療や診療内容に対して」「応対に対して」「予約の取りやすさや設備などに対して」「患者さんの勘違いや不注意によるもの」などが挙げられます。
起こって欲しくはないクレームですが、起きてしまった際は、慌てず冷静にクレームの原因と患者さんの気持ちを汲み取って誠心誠意対応することが大切です。
クレームが起こってしまった時の対応の流れ
クレームが起こってしまった時の対応の基本的な流れは次の通りです。
①不快な思いをさせてしまったことに対するお詫び
②傾聴しながら内容を確認し患者さんの気持ちを理解する
③クレームで起こった事実と要望の内容を整理する
④具体的な対応や提案(クレームの内容や要望によって異なります)
⑤再度お詫びと、ご意見に対するお礼を添える
クレームが発生してしまった時に、はじめにすべきことは、不快な思いをさせてしまったことに対するお詫びです。ここでの注意点としては、クレームそのものに対する謝罪をしないということです。内容をしっかりと聞かずに謝罪をしてしまうと、すべての非が医院にあると認めたと認識されてしまう場合があります。
また、お詫びをせずに対応を進めてしまうと、患者さんがより感情的となってしまい、更なるトラブルへとつながってしまうこともあるので、まずは不快な思いをさせてしまったことに対してお詫びを伝えましょう。
次に、患者さんの気持ちに寄り添いながら事実確認と要求が何なのかを確かめていきます。クレームや苦情を訴える方の要求としては、表現方法は様々ですが「謝罪してほしい」「自分の状況を理解して認めてほしい」「解決・改善してほしい」などに分類されます。
事実確認と要求を整理し、医院側から対応が必要な場合は、その方法などの説明や提案をします。すぐに解決できない場合であっても、いつまでにどうするのかなどの流れをお話しておくとよいでしょう。
ただ、出来ないことを解決しますと安請け合いするのは厳禁です。要求に対してどうしてもお応え出来ない場合も、もちろんあるかと思いますので、その場合は、患者さんの気持ちに寄り添いながらその旨を真摯に伝えることにポイントを置きましょう。
不満を持っている顧客のうち苦情を言うのは4%にすぎない、残り96%はただ怒って二度とこないだけ
『サービス・マネジメント』(カール・アルブレヒト、ロン・ゼンケ共著)
上記のように言われている通り、クレームを伝えてくる人は、同じ不満を持った人の4%と言われています。つまり、残りの96%はクレームを伝えずに来院しなくなっているということです。
こういった観点からも、最後に改めてクレームに対する謝罪と、ご意見を頂いたことに対するお礼を伝える事が大切になります。
やってはいけないクレーム対応
一通りの対応の流れを紹介しましたが、次にやってはいけない例についてです。
- 患者さんの話をさえぎったり、言葉をかぶせない
- 嫌そうな態度や迷惑そうな態度を取らない
- 一方的に、意見を突っぱねたり疑ったりしない
- 医院の当たり前や通例を押し付けない
- 非を一切認めず言い訳ばかり伝えない
クレームが発生してしまった時に何より重要なのは、まずは、患者さんの声に耳を傾けることです。
上記で上げたような対応をとってしまうと、誠心誠意対応してもらえていないと、患者さんが逆上してしまい、更に大きなクレームやトラブルへとつながりかねませんので注意が必要です。
悪質なクレーマーの場合は、自分たちだけで対応しようとしない
クレームの中には、過度な要求や嫌がらせ、場合によっては脅迫や暴言に近いようなクレーマーの場合もあるかもしれません。理不尽な要求や行動は、医院側が真摯に対応をしようとしてもなかなか解決できるものではありませんし、その見極めの簡単ではありません。
また、悪質なものは脅迫罪・強要罪・威力業務妨害罪などの様な、犯罪行為となります。一線を越えるような内容であれば、自分たちだけで解決しようとするのではなく、警察や弁護士などしかるべき所へ相談しましょう。
明らかに不自然なクレームだと感じた場合には、次のような行動が適切です。
- スタッフ一人で質問に答えたり、回答をしないように医院ルールを設けておく
- 電話の場合は、院長からあらためて電話するからと伝え、スタッフは手短に電話を切る
- 院長があらためて電話する際に、苦情を言っている人が本人であるかを確認する
- 患者さんの苦情内容を録音、メモする(この時、同調も反論もしない)
- 明らかに、言いがかりの場合、診療内容の話には触れず、個人的な折衝を打ち切る
- 弁護士に相談すると共に警察へ通報し、第三者を入れた解決方法をとる
また、初めてこういった悪質クレーマーに遭遇したスタッフは情緒不安定になり、その後の就業に影響が出る場合があるので、事前にみんなでロールプレイングを行い、ある程度慣れておくようにしておいてあげると安心です。
クレーム対応における応召義務の考え方
歯科医師には、正当な理由がない限り患者さんの診療の求めに応じなければならいという「応招義務」があると法律で定められています。(歯科医師法第19条第1項)
しかし、この応召義務の対応のあり方も時流に応じ内実が変わった事を受け、厚生局が令和元年に通知を出し、「患者を診療しないことが正当化される事例」などを取りまとめています。
患者の迷惑行為
診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等
「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」医政発1225第4号(令和元年12月25日)
その一つとして、上記のように過度な迷惑行為を続ける患者さんには応召義務を負わなくても良い正当な理由があると判断され、診療を拒否する事も可能になります。警察・弁護士など専門家の判断を仰ぐ必要はありますが、いざという時の対応の考え方や、自衛手段の一つとして、応召義務の解釈についても把握しておくと良いでしょう。
クレームを起こさないための対策例
ここまで、クレームが起こってしまった場合の対応方法の例を紹介しましたが、やはりクレームが出ないに越したことはありません。
前項で、少しロープレについてふれましたが、予め医院でクレームを発生させないための防止策としてどんなことが出来るかなどの対応例を紹介します。
- クレーム対応マニュアルを作成する
- 些細なクレームであっても記録をとり、いつでも院内共有できる状態にしておく
- 医院でケーススタディを共有し対策を話し合う
- クレーム応対のロールプレイングを院内で実施する
- クレームが減らない場合、外部研修を受けてみる
クレーム対応マニュアルでは、患者さんから寄せられるクレームはどのようなものかなど、患者さんの視点からクレーム内容を想定し、医院としてどのように応対をするかなどの対応の流れを決めて共有しておきます。他にも、クレームが発生してしまった場合、周囲がどのようにフォローに入るかなどの基準も設けておくと良いでしょう。
クレームの記録については、カルテなどに記載して共有するのがいいでしょう。記録をとっておくことで、次に患者さんが来院して頂いた時の注意意識やお詫びを伝えるのに役立つだけでなく「前も言ったのに改善されてないじゃないか」などの二次クレームへ繋げないためにも重要です。
また、クレームを起こさないためには医院全体で共通認識をもつことで、再発防止などへつなげていきます。話し合った内容や対策をマニュアルへ更新していくことで、医院に合った対策が取れるようになるだけでなく、新しく入ったスタッフへの共有もスムーズになります。
今回は、クレーム対応をテーマにお話しをしました。
最近では、WEBやSNSなどにクレームを書き込むなど、直接患者さんから伝えられるのではない場合も増えてきています。別記事でWEBやSNSに悪い口コミが書かれてしまった場合の対応についてお話していますので、お役に立てれば幸いです。
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