歯科医院の開業準備をしていく中で、医院内装についても考える必要があります。
その中で、空調をどうしていくかも決めていきます。今回は弊社で歯科医院の開業サポートをしている際に時々頂く、エアコンについての素朴なギモンを豆知識としてまとめました。
歯科医院の空調は家庭用ではダメなのか?
実のところ個人用エアコンと業務用エアコンとで基本性能に大きな違いはありませんが、頑丈さや馬力の大きさ、拡張性、必要な設備、コストに違いがあるので、メインで使用するエアコンは業務用がおススメです。
広さと設備の制約
まずは拡張性について、家庭用のルームエアコンは1方向にしか風向がありませんが、業務用エアコンでは4方向に対応する製品があります。オプション料金はかかりますが空調ダクトの使用が可能であれば、1つのエアコンで風向数分の部屋の空調をコントロールすることも可能です。
それから室外機までの距離ですが、家庭用エアコンは配管が短いので数メートルの短距離に限定されますが、業務用エアコンであれば数十メートルより遠方の設置も可能です。とくにテナントや複合商業施設では室外機の置き場や台数も限られる事が多く、これらの拡張性が有利になる場合があります。
歯科医院のエアコン設置の考え方例題
ここで例題として、ユニット4台、30坪程度のテナントで歯科医院を開業する場合、どのようなエアコンをいくつ用意すればいいかを考えてみましょう。歯科医院の広さについては「歯科医院の広さと坪単価の考え方」や「坪数別医院配置例とポイント」をご参考ください。
広さから算出すると、10坪=3馬力が空調の相場なので、単純計算で30坪なら9馬力が必要ということが分かります。
この内、壁で仕切られた部屋が4部屋あるとしましょう。診療室、待合室(受付)、カウンセリングルーム、スタッフルーム…どこにどれだけ空調の馬力を振り分けるか、内装を計画する段階で考えておかなければなりません。(天井の高さがある場合には空間容積が増すためより大きな馬力が必要になりますが、ここでは割愛します)
歯科医院を安定して経営していくためには集患が必要なので、患者さんにとっての快適さを考え、診療室と待合室に多くの坪数と空調設備の馬力を振り分ける必要がでてくるでしょう。
診療スタイルや環境にも応じて変わりますが、仮に、診療室:待合室:スタッフルーム=4:2:2、坪数の少ないカウンセリングルームには1馬力(またはそれ以下)を振り分けると冷却(暖房)効率の良い内装設計だったという事にします。
次に何を導入するかですが、業務用エアコンの相場は下表のようになっています。
業務用エアコンの価格例
馬力(風向数) | 定価 | 販売価格 |
---|---|---|
3馬力(4方向) | 約70万 | 約35〜45万 |
4馬力(4方向) | 約80万 | 約40~50万 |
歯科開業にはかなりの額の事業資金が必要です。空調設備の他にも歯科医院の開業時にそろえる機材や設備・備品はたくさんあるので、コストはなるべき抑えたいですよね。
テナント・複合商業施設など自分が所有する物件と土地でなければ、使える設備も限られます。もし例題のテナントで3台しか室外機が置けなかったとすれば、全室に個別のエアコンを設置することができないので、空調ダクトを利用して次の様な設置が考えられるでしょう。
例題のエアコン設置例
空調種別 | 使用する部屋 |
---|---|
業務用エアコン(4馬力) | 診察室 |
業務用エアコン(4馬力) | 待合室(2馬力)+スタッフルーム(2馬力) |
家庭用エアコン(1馬力以下) | カウンセリングルーム |
これなら前項で上げた、室外機は3台までという施設側の要件を満たし、開発コストも極力抑えることができます。家庭用エアコンについては、家電量販店などの価格をご参考ください。
※設置内容は環境に応じて変わるので、例題はあくまで参考としてお考え下さい。
歯科医院など店舗で使うエアコンは連日・長時間に渡り使用するので、特に診察室や待合室などは馬力と耐久性のある業務用エアコンを使用した方が無難です。
設備の制約についてもう一つ、業務用エアコンを使用するには三相(動力)の電源が使え、かつ低圧電力の契約をしておく必要があります。詳細は開業を希望する物件の設備や、各電力会社などでお確かめください。
前提としてこの設備がテナントや複合商業施設で使えなければ、業務用エアコンを設置できない場合もあるのでご注意下さい。
ランニングコストの違い
家庭用エアコンでは単相(電灯)と呼ばれる電源を用い、業務用エアコンでは三相(動力)と呼ばれる電源を使います。単相は基本料金が安く設定されていますが、反面、使用量料金が高くつきます。対して三相は基本料金が高く設定されていますが、代わりに使用量料金が安くなっています。
ちなみに、東電では単相100Vの従量電灯Bプランで基本料金は税込280円80銭~1,684円80銭(10A~60Aのアンペア数に応じます)、使用料金は使用量に応じて1kwh辺り19円52銭~30円02銭になります。対して三相200Vの低圧電力プランでは、1kwあたりの基本料は1,101円60銭、使用量は夏季17円06銭、その他の季節は15円51銭となっています。
医院全体での使用量にもよりますが、年単位の長い期間で考えると、ランニングコスト面で業務用エアコンに軍配があがる分岐点が訪れるでしょう。
以上のように、歯科開業時に設置する空調は必ずしも業務用エアコンでなければダメというわけではありませんが、家庭用・業務用エアコンの役割をよく考え、設備やコストの面からも何をどう導入すべきかよく考える必要があるでしょう。
歯科医院に設置するエアコンの注意点
先ほどの例題では割愛しましたが、空調を考えるには体積を考える必要があります。テナントや複合商業施設などは天井が高く、同じ坪数でも空間容積が多くなるので、相場の馬力を割り当てても空調がうまく周らないことがあります。
空気が設定温度に温まらない(冷えない)と、その分エアコンもハイパワーで動き続けてしまうので、結果的に電気代はかかりますし、消耗も激しく機体が壊れやすくなるでしょう。
また、待合室や診療室が外向きの大きなガラス張りで、直射日光を受け温まりやすい場合なども同様で、このような空間には遮熱対策を行うと同時に、エアコンの馬力や風向の向きで空調の調整をするなどといった工夫も必要になります。
院内の設計によっては空気の回り方も違うので、院内の空気循環の具合も考え、いかに効率よく居心地のいい温度にコンディショニングするかという点を大事にしましょう。
それから、患者さんは待合室や診療室で長い待ち時間を過ごしますが、スタッフは診療で用事がない限りこのエリアに長く滞在しないので、暑かったり寒かったりしてもなかなか患者さんの様子に気づいてあげられないことがあります。
スタッフと患者さんとでは動線が違うので、歯科開業の内装を考える時には患者さんの目線に立ち、患者さんにとって居心地の良い空間をつくるように心がけましょう。
歯科開業時における、空調の考え方とエアコンの選び方についてでした。
空調は後から小さめの冷暖房機器を購入するなどして調整することも可能ですが、室外機が必要な機器だと置き場の制約もあり、テナントや複合商業施設ではかなり難しくなります。追加費用もかかりますし、大がかりな設置となれば、工事の間は院内外で不自由な思いをすることもあるでしょう。
さらに、医療機関は清潔さが何より求められるようになり、院内環境をクリーンに保つ空気清浄機の導入も近年増えています。
歯科開業の内装計画設計でしっかりと考えて開業すれば、追加の費用や業務に支障を出すこともなく、効率的な経営ができるともいえます。
施設の設備要件を守りながら、どれだけの空間容積にどのスペックの空調をどのように置けば患者さんに居心地のいい医療環境を提供できるのか?ある程度のポイントはお話しましたが、個人で対応するのはなかなか骨が折れるでしょう。
初めての歯科開業であれば、内装や空調については歯科開業の現場で数多くの経験を積んだ、内装設計のプロにお任せするのがベストな選択かもしれません。
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