「歯科の開業資金は実際どのくらい必要?」でご紹介した通り、歯科開業には多額の開業資金が必要になります。その開業資金を両親を始めとした親族から借りる場合、贈与税についても注意が必要です。
身内が相手だからと「ある時払いで良い」「出世払いにする」などといった曖昧な形にして正式な契約書を交わさずにいると、税務署に贈与とみなされ贈与税がかかるばかりか、贈与を無申告でいたとして加算税や延滞税といった重いペナルティを課される恐れもあります。
それでは、親族から開業資金を借り入れる場合、贈与税についてはどのように対応したら良いのか?対策とポイントについて詳しく解説していきます。
歯科開業資金を親族から借入れる時の注意点
契約書で合意条件を明確化
親族からの開業資金借り入れに贈与税がかからないようにするには、契約書を交わし合意条件を明確にしておきましょう。
具体的には、開業費用の貸主(親族)と借主(歯科開業主〕の間で金銭消費貸借契約書を作成すると良いでしょう。金銭消費貸借契約とは金銭を消費貸借の対象とする契約のことで、民法で下記の様に定められています。
第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
e-gov法令検索:民法
この通り、返還の約束をする事が前提になるので、契約書には契約年月日、借入金額、返済条件、返済利率などを記載し、貸主と借主が合意している事を明記しましょう。
お金を借りる際には借用証書もよく用いられますが、金銭消費貸借契約書が貸主・借主が共同で2通作成しそれぞれが1通ずつ保持するのに対し、借用証書は借主側が1通作成して貸主に提出し、貸主が保持する書類になります。どちらも法的な効力を持ちますが、貸主・借主の両者合意を示せる金銭消費貸借契約書の方が、税務調査に対する信頼性が高いと言えます。
また、借入金であるという証拠の効果を高めるには、金銭消費貸借契約書を公正証書にしたり、金銭消費貸借契約書に確定日付を押してもらいましょう。
これらの手続きを行うと贈与でないという主張にも拍がつくので、手間や手数科はかかりますが、きちんと手続きを行っておくと良いでしょう。
無理のない返済条件を設定する
返済条件についても、贈与税対策で気を付けるべきポイントがあります。
身内である事に甘え、あまり緩い返済条件にしておくと、贈与とみなされる可能性があります。また、歯科医院の経営や、借主(歯科開業主)である先生の生活に支障が出るような厳しい返済条件を設定すると、それらの資金繰りをどうしているのか、という点について疑いを持たれかねません。
そこで、親族から開業資金を借り入れる時でも、適正な返済条件が設定されていると認めて貰うために、金融機関から借りた場合の返済条件などを参考にすると良いでしょう。
相場に応じた利息を決めておく
親族から借入れる場合でも、借入金には利息を払う必要があります。
この利率も、金融磯関から借りた場合の利率などを参考にして決めると良いでしょう。 借入れ時期や事業規模などに応じて利息も変わりますが、現在の相場は概ね1%~2.5%程度です。
無利息または過度に低金利で設定すると、貸主(親族)から借主(歯科開業主)へ利息分を贈与したとみなされ、借入金額によっては借主が贈与税を払う必要も出てきます。
当事者が利息や遅延損害金の利率を定めていなかった場合は法定利率が適用されますが、現状の民法の下では法務省が三年を一期として直近の利率を定めており、2023年4月1日から2026年3月31日までの法定利率は年3%となっています。
この法定利率を基にすると、
借入金5,000万円かつ無利息
→5,000万円×年利3%(法定利率)=150万円
上記のケースは贈与税の基礎控除である110万円を超えるので、借主は控除額を差し引いた40万の利息に対し贈与税を払わなければなりません。
借入金3,000万円かつ無利息
→3,000万円×年利3%(法定利率)=90万円
上記のケースは、贈与税の基礎控除である110万円以下なので、借主が贈与税を払う必要はありません。
借入れ時点の法定利率に応じ贈与税が発生する分岐点も変わるので、借入金額と利息の関係には十分に注意しましょう。
贈与を疑われない返済方法
親族からの借入金に贈与税がかからないようにするためには、返済方法にも気を配らなければなりません。
返済方法は手渡しではなく、銀行振込を採択すると良いでしょう。そうしておくと、税務署の調査を受けても、契約通りの返済を行っていると通帳の履歴で実証する事ができます。
歯科開業の資金を親族から借り入れる場合の贈与税対策についてお話しました。
親や親族から借入れるのは一見気楽な感じがしますが、きちんとした手続き・手段で行わないと贈与税の対象になるので注意が必要です。
また、税金や金銭面の心配以上に、貸主(親族)と借主(歯科開業主)のコミュニケーションや信頼関係を築いていく事が最も重要な課題となります。
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