インサイトでは、歯科医院の開業コンサルティングを行っています。そのサポートの中の1つ、歯科医院の内装設計サポートを行う際に、先生から「医院の待合室と診療室にドアを設ける医院のそうでない医院があるけど、なんで?」と言うようなご質問を時折受けることがあります。
今回はその歯科医院の設計のギモンにお答えしていきます。まずは、それぞれのメリットについて解説しましょう。
歯科医院で待合室と診療室のドアの設けるメリット
待合室と診療室の間にドアを設けるメリットのひとつに、患者さんのプライバシーを守れるという点があります。
患者さんにより症状も様々なので、自分の症状について他の患者さんに知られたくなかったり、治療を痛がる姿を見せたくなかったりすることもありますよね。このような時、扉などで診療室が分離され衆人に見られる心配がないと分かれば、安心して治療に集中できます。
また、診療室と待合室との情報が遮断されるので、待合室の患者さんは一般的に不快に思われがちな歯科独特の匂いや器具の動作音から切り離され、匂いや音から誘発する「痛い思いをするのでは?」といった不安にとらわれることもなくなります。
歯科診療室にドアの設けないことのメリット
それでは逆に、待合室と診療室の間にドアがなければどのようなメリットがあるでしょうか?扉があると診療室が隔離されるので、それなりの閉塞感が生まれます。この点、扉がないほうが開放感のある空間にできるでしょう。
恐怖の誘因になる治療音や診療の様子について、うっすら見聞きできる程度であればかえって中の雰囲気が把握できるので、安心感につながることもあります。ほかにも、足腰の悪い高齢者の方などにとってはドアの開け閉め自体が困難な場合もあるので、扉がなければスムーズな出入りができるでしょう。
診療室と待合室のドアの設置をどうするか?
自分の歯科医院で診療室と待合室のドアの設置をどうすべきか、開業準備の早い段階で決断する必要がありますが、この問題については慎重に考えなければなりません。
理由はおよそ以下のようになります。
保健所の見解が地域ごとに違う
歯科の開設届は管轄する地域の保健所に受理してもらう必要があります。
第二十一条及び第二十三条の規定に基づく厚生労働省令並びに第二十一条の規定に基づく都道府県の条例の定める要件に適合するときは、前三項の許可を与えなければならない。
医療法第7条
とある通り、法令で定められた規定を満たす必要があります。
このうち医師法第21条で次に掲げる人員及び施設を有し、かつ、記録を備えて置かなければならない。
という設備要件の中に二 各科専門の診察室
と明記されていますが、管轄の保健所によってこの見解が違うことがあります。
保健所の見解例(「診療所・歯科診療所 開設の手引き」から抜粋)
都内の保健所を調べてみたところ、上表の3つの市区だけでもこのような違いがありました。(実際に確認される際は、保健所へ直接確認頂くか、最新の情報を確認されてください)
ただし、患者さんのプライバシーを守るために待合室と診察室を明確に区分けする必要がある、というのはどの市区町村でも統一した見解です。
扉で区分けすることが必須であると明確に謳われているわけではありませんが、患者さんのプライバシーが守られるように、自治体ごとに決められたガイドラインを守らなければ開設できなくなることもあります。
院内の動線と診療スタイル
一方、開設側の先生にも患者さんのことを考えた上でどうしたいかという思いがあるでしょう。
足腰に不安のある方でも安心して歯科診療が受けられるように、院内に開閉式の扉は設けず、診療室までスムーズに行き来できるようにしたい。待合室にいる患者さんの不安を取り除くために、開放感のあるアットホームな関係作りのできる院内動線にしたい。先生の理念や診療スタイルにより、さまざまな理想があると思います。
内装はつまるところ施主(つまり、先生ご自身)の好みで決まりますが、法の基準を守らなければ開設ができなくなるので、自分の理想と法基準の擦り合わせに注意しましょう。
保健所から扉について指摘を受けないようにするにはまず、内装平面図がある程度決まった段階で保健所に相談し、よく内容を確認しておくことが重要です。
保健所では開設届を出す前の事前相談を受け付けているので、計画した内装で認可が下りるかどうかを念入りにチェックしましょう。
内装の設計方法によってはドアを設けていなくても待合室から見えないような作りにする事もできますし、ノブで開閉するのではなくセンサーやスイッチでオープンする自動扉や、引き戸・自閉式のドアなどを設置すれば、ドアの開け閉めが困難な方の負担も軽減できるでしょう。
保健所の認可が受けられるように、柔軟な対応を心がけましょう。
もちろん保健所からOKがでても、患者さんのプライバシーを守る配慮を怠ってはいけません。
扉を設けない場合にはパーテーションや壁の視覚効果を利用し、患者さんの動線からに各ユニットが見えない様に内装設計にしたり、診療ブースまでの歯科医院内の動線そのものを分離させるなどの工夫でプライバシーに配慮しましょう。
扉がある場合でも透明性のある仕上がりにしたければ、完全透明ではなく半透明の素材を使用したり、ステッカーを貼るなどするとプライバシー対策に効果的です。音や匂いでのストレスを和らげるには、音響や空調機器(空気清浄機・アロマ)を設置するなどの方法もあります。
扉の有無に関わらず、患者さんの不安に対してはしっかりとフォローをしていきましょう。
このように、歯科医院の内装設計は自分の意見だけを押し通せる問題ではありません。患者さんへの配慮を忘れず内装の計画をたて、保健所に入念な確認を行い、地域に信頼される歯科医院開業を目指しましょう。
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