歯科経営管理

歯科医院の就業規則例!就業規則作成のポイント

歯科医院の就業規則例と作成のポイント
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歯科医院のスタッフ採用する場合、求人媒体に広告を出しますが、就業規則がしっかり出来上がっていないと、採用後に「求人条件と実労働条件が違っている」などという初歩的な労務契約の問題をはじめ「業務中のミスや上司への不満等を、私的なブログに記載した」「患者への応対が悪くたびたびクレームとなるので、辞めてほしいと伝えたら規定違反だと反論された」などの、院内トラブルが発生し、せっかく採用したスタッフが全員辞めてしまう事態を招きかねません。

こうしたトラブルを避けるためにも、医院のルールである「就業規則」を定めておくことが大切です。

しかし、残念ながら歯科医院が小規模であるため、法的に作成義務を負わない(10人未満の事業所は就業規則を作る必要がありません)、作るのが面倒、そもそも労働基準法などの法律が分からないなどの理由から、就業規則がない医院も多く見受けられます。

そこで、今回はなぜ就業規則を作ることが、院長を守ることにつながるのかという理由と作成する際のポイントをお話ししましょう。

なぜ就業規則は必要なのか?

そもそも労務トラブルの多くは、院長とスタッフ間で働き方について認識の違いによって引き起こされます。院長が「こういう行為を院内ですべきでない」という感覚に対し、スタッフは悪気なく「当初は何も言われなかったのに、後から言われても困る」といった感覚のずれに発します。

まずは院長とスタッフの感覚は必ずしも一緒ではないという前提に立ち、双方の認識をすり合わせていくことがトラブル回避の第一歩となります。

このためには、院内のルールを作る必要があるわけですが、このルールの根幹は国が事業者や労働者に対して労働に関する権利や義務を定めた労働基準法、労働組合法、労働関係調整法の労働三法をはじめとする雇用関係の法律になります。

その他に、職場のルールを定める手段として労働契約書や労働協約、就業規則があります。これらは前述の労働法とは異なり、各医院が個別に作成するもので、より細かく各医院に合ったルールを定めることが可能です。

前述の労働法は、国が定める基本的なルールなので、順守することが前提であるものの、その目的は立場が弱いとされる労働者を守ることにあります。

そこで、院長を守るためには、各医院が個別に規定する「労働契約」と「就業規則」が大きなカギを握ります。なぜなら、万一スタッフと紛争になった場合には、この2つが院長の主張を支持する法的基盤となるからです。

就業規則作成前に、必要な労働条件を決めよう!

先ほどの労働契約とは、どのような条件でスタッフを雇用するかということですが、法律によって以下の項目を決める必要があります。また、この項目を必ずしも書面にする必要はありませんが、トラブル回避のために、書面で明文化しておくことが大事です。

労働契約で明示しなければならない労働条件(労働基準法施行規則第5条抜粋)

・労働契約の期間に関する事項
→期間の定めがある場合は必ず記載しましょう。無期契約の場合も、本採用前に試用期間を設ける場合はその期間を記載します。

・有期の労働契約を更新する場合の基準に関する事項
→期間の定めのある雇用に関しては「更新の有無」と、更新する場合は「その基準」を明確に記載しましょう。

・就業場所や業務内容に関する事項
分院勤務の可能性などがある場合は、ここに記載しておきます。

・就業時間、残業等の有無、休憩時間、休日、休暇、シフト勤務時の交代期日や順序に関する事項
時間外労働の有無や休日労働の可能性等について記載します。

・退職に関する事項(解雇の事由を含む)

・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項

・臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与や最低賃金額等に関する事項

・労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

・安全及び衛生に関する事項

・職業訓練に関する事項

・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

・表彰及び制裁に関する事項

・休職に関する事項

また、上記の項目が次に説明する就業規則に規定する内容と重複する場合がほとんどだと思いますが「就業規則に準ずる」などとせずに、書面の中ではっきりわかるように明示したほうが良いでしょう。

就業規則に記載が必要な項目の注意点

就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」、定めがある場合に記載が必要な「相対的必要記載事項」があります(労働基準法第89条)。

それぞれ、具体的には以下の通りです。

絶対的必要記載項目

必ず記載しなければならないことは次の通りです。

(1) 労働時間に関すること

始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、シフト交代勤務について(期日や順序)

1日の就業時間は、8時間以内、1週40時間までとなっていますが、歯科医院は衛生業務ということで特別に1週間44時間まで就業させることが可能です。

また、就業時間の間には休憩を与えることも義務付けられており、1日6時間を超える場合は45分以上、1日8時間を超える場合は1時間以上となっています。 さらに、休憩を与える場合の注意としては、就業開始直後や終了直前に取らせてはいけません。就業中に取らせることが必要です。それと、医院によっては昼休みの最終に電話番を命じている医院もあるようですが、これは「休憩を自由に使わせる」という点で違反になってしまうので注意が必要です。

歯科医院は患者対応やカルテ整理等で、どうしても勤務時間が延びてしまうことがあります。時間外労働を命じることがある、また必要に応じて休日に労働を命じることがある旨も、念のためここに記載しておく必要があります。

また、法定労働時間は前述のように、1日8時間と定められているのですが、診療時間が8時間を超える場合などを考慮し、「変形労働時間制」を導入する方法もあります。ただし、この場合は就業規則への記載と労使協定の締結が必要となります。

(2) 賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項

賃金に関してはトラブルになることも多いので、要注意です。時間外労働の割増賃金率などは、ここで明確に定める必要があります。一般的には、法定労働時間である8時間を超えて就業させる場合には、25%の割増賃金を支払わなければなりません。

また、通常の給与に加えて通勤手当や住宅手当、試用期間中の賃金規定がある場合は、全て記載します。昇給については、タイミングや決定方法のほか、医院の業績や個人の能力により昇給がない場合もある旨を書いておきましょう。

(3) 退職・解雇の事由に関する事項

退職は、特にトラブルとなりやすい項目です。退職に関する事項は、網羅的に記載しておくようにします。特に、就業規則に定めが無い事由で解雇することは困難ですので、具体的に普通解雇、懲戒解雇とその事由を規定しておきます。

小規模の歯科医院では、スタッフの急な退職は診療や経営に大きく影響してしまします。そこで、退職する際にはどれくらい前に誰に報告し、どんな手続きをとるのか、を規定しておくとよいでしょう。

また、業務の引き継ぎ、顧客データを持ち出さないこと等を定めた守秘義務に関する誓約書を提出、貸与している制服や鍵等の返還義務も定めておきましょう。

相対的必要記載項目

定めがある場合に記載が必要なものです。

(1) 退職手当に関する事項

法律上は、退職金制度を設けることに法律上の義務はありません。退職金を支給するか否かは医院の状況に応じて判断します。退職金は、スタッフのやる気を長期的に引き出すため、または職場に対し忠誠心を高めるために、老後の生活を保障する目的で創設されます。

しかし、医院経営において退職金はいくつかの問題点があります。それは、支払いが高額であること、小規模歯科医院では、何十年にもわたる勤続者はまれにしかでず、恩恵を受けるスタッフが少ないこと、医院スタッフの職種は多岐に渡り、雇用形態が人により異なることもあるので、トラブルの元になるなどです。

そこで、最近では退職金制度を設けるのではなく、基本給を高めに設定するほうがスタッフにとってメリットを感じやすく、採用がスムーズにいくケースもあるようです。

(2) 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項

「賞与」も法律上は支給する義務がありませんが、こちらはスタッフのモチベーションを上げるために規定したい項目です。ただし、就業規則で支給を規定すると、支給義務が発生しますので、医院の経営状態、その他のやむを得ない事由がある場合は支給されないことがある旨を記載しましょう。

また、賞与を支給する基準なども明確にするほうがトラブルを防げます。過去の事例では、医院の利益をスタッフにも開示して、利益の〇〇%を賞与原資とすると賞与支給の基準を明確にすることで、高い業績を上げた歯科医院もあります。

(3) スタッフの服務規律に関する事項

患者からお菓子や、現金の謝礼を渡されることもあります。その際、患者からの金銭・物品を一切受け取らないのか、受け取るならば誰に報告するのかなど、対応を明確にして就業規則に定めておくことで、トラブルを回避できます。

(4) カルテや保険証など個人情報の取り扱いに関する事項

歯科医院で保険証やカルテに記載された事項は、個人情報の中でも特に秘密性が高い情報です。

個人情報の漏洩などが大きくニュースでも取り上げられる現在、歯科医院にとっても他人ごとではありません。スタッフに対して個人情報保護の教育を行うことはもちろん、就業規則で個人情報の厳重な取扱いを定めることで、内外に医院の姿勢を示しましょう。

(5) その他

以下の事項も、人事・労務に関連したトラブルを起こさないためには重要な項目です。それぞれ医院の実態に合わせて、具体的に設定しましょう。

  • 安全衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰、制裁に関する事項
  • その他全労働者に適用される事項

就業規則の運用

就業規則を作ったのは良いですが、その内容を院長自身がしっかり理解し、スタッフと共有しなければ何にも始まりません。

そのためには、就業規則をスタッフがいつでも見ることができるようにするか、もしくは印刷して配布するなどして、ルールを徹底しましょう。

ここまで、歯科医院の就業規則について紹介しました。ご自身の医院で抱えている人材や労務関係については、お付き合いのある所にご相談頂くのがスムーズでしょう。

しかし、場合によっては、労務関係は対応していないという税理士の方や、税理士事務所もございますので「相談にてみても、対応してもらえない。別の所を探したい」というような場合、労務対応も行ってもらえる税理士事務所を当社からご紹介させて頂くことも可能ですので、ご相談ください。

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